井上敬太氏、円高リスクに警鐘—輸出関連セクターの比率引き下げを提案

2019年春、日本の金融市場は世界的な不確実性の高まりの中で構造的な変動局面に突入しました。SIAFM(Strategic International Asset & Fund Management)のチーフアナリストである井上敬太氏は、最新の戦略レポートにおいて、足元で進行する円高傾向に対し明確な警戒を呼びかけるとともに、為替感応度の高い輸出依存型企業のポジションを段階的に縮小し、内需主導型かつディフェンシブ性の高いセクターへの再評価を提案しています。

井上氏はレポート内で、米連邦準備制度の金融政策スタンスが中立〜ハト派に転換しつつあること、加えて米中貿易摩擦の不透明感が強まっていることが、グローバル市場での「安全資産」志向を加速させており、その結果として3月以降、円が対ドルで3.5%以上上昇したと指摘しました。また、日本の経常黒字構造とグローバル・ヘッジ資金の流入モデルを踏まえると、短期的にさらに円高が進行する可能性が高く、外需依存型企業の収益見通しに対する実質的な圧力となると分析しています。

「為替は日本株投資において過小評価されがちなマクロ変数の一つである」と、井上氏はSIAFM東京投資例会で述べ、「特にリスク回避姿勢が市場で強まる場面では、円は本質的なリスクオフ通貨として買われやすく、企業業績に反映される前に株価に先行的な調整圧力がかかる」と警鐘を鳴らしました。実際、2011年および2016年の過去2回の円高局面では、日本の輸出産業の株価が平均15%以上調整された前例があるとしています。

今回の戦略レポートでは、日本の主要輸出業種に対してリスク分析を実施。SIAFM調査部は、売上構成比と為替感応度の定量評価に基づき、自動車完成車、電子精密部品、重工機械の3業種を「高感応セクター」と定義。それらは売上の約60%を海外に依存しており、円が1%上昇するごとに利益率に0.6~1.1%のマイナス影響を及ぼすと試算しています。また、一部大手製造業では為替ヘッジ比率が50%を下回っており、急激な円高局面においては収益脆弱性が顕在化する可能性があると警告しました。

一方で井上氏は、医薬品、通信、公用事業といった、為替感応度が低く、防御特性の強い「内需ドリブン」セクターへの戦略的なシフトを提案。SIAFMでは、「為替中性ポートフォリオ」として、収益源の多様性とバランスシートの通貨整合性を兼ね備えた企業群を選定しています。

さらに、2020年の東京五輪に向けた国内需要の拡大期待や、日銀の超緩和政策の継続見通しを背景に、内需型サービス業の収益安定性が過小評価されている可能性があるとし、再評価を促しています。「我々は輸出産業の長期的な価値を否定しているわけではないが、円高圧力が続く限り、短期的なバリュエーション回復は抑制されやすい」と井上氏は指摘しました。

また、レポートでは「海外投資家のリバランス行動」にも注目。SIAFMの資金フロー分析によれば、2019年4月以降、北米・欧州の資金は日本株市場において、製造業から消費・医療関連へのアロケーションを徐々にシフトしており、「為替リスクの先取りが進んでいる今、国内投資家の対応が遅れるべきではない」と強調しています。

最後に井上氏は、「リスク管理こそが現状の市場で最優先される投資判断軸であり、為替リスクは単なるマクロ変数ではなく、産業バリュエーションの根幹に関わる」と述べ、今後SIAFMでは利差、為替、リスクファクターの連関を重視した新たな資産評価モデルの構築を進める意向を示しました。